漫画の描写による分類―こども・女性・悪役・仲間・家族の描き方

 漫画においてある属性をどのように描くのかには作者、あるいは作品によって大きく異なると感じる。もちろん同じ作者・同じ作品の中でも、あるいは一人のキャラクターのなかでさえも複合的な要素をもっていることも多いが、属性の描き方を分類し、その分類に沿って一人の漫画家・一つの作品を俯瞰してみてみると、例えば「王道バトル漫画」と一括りにしていた漫画が全く別の構造を持っていることが見えてくる。

 以下はあくまで筆者が独自に作成した分類であり、今後この類型にあてはめて様々な作品を分析してみようと思うが、これとは違った視点・切り口で分類してみても面白いと思う。

カテゴリタイプ名キャラクターの傾向作者の傾向
こども純粋性・光源純粋、善良、それが周囲に影響を与える理想主義、人道主義的
弱さ・脆さ保護対象、成長する子どもを「世界に対して弱い存在」として認識
理念先行型理念・価値観の早期獲得思想重視、こどもも一人の人間として尊重
俯瞰・諦観型早熟な認知・諦観「子ども=善/希望」という漫画的価値観よりも、
リアリズム寄りの視点
カオス源無邪気さ、それゆえのトラブルメーカー現実での人間観の反映ではなくあくまで作中で物語を動かす役割をあたえている
女性対等戦力性別による役割の違いはほぼない性別より能力主義、ジェンダー意識がフラット
母性・支え「支える人」「見守る人」母性的女性像
魔性・畏怖魔性の女女性への畏怖・神秘視
傷ついたヒロイン物語の中で「傷を抱えたまま生きる/少し回復する」過程が重視「傷ついた他者」を救いたい/理解したい思考
悪役理念の影信念の対立物語を「理念の対立」として組み立てる。• 世界観の価値軸が強い
背景起点悲劇的背景・環境要因弱者・被害者への共感が強い
純粋悪怪物、異常心理をもつ人間「理解不能」への興味
システム悪対立せざるを得ない社会分析的、社会学的視点
道化悪役悪役だが基本はギャグ要員反権威・反体制の感性
回収悪役最初は敵だが、途中から味方化する前提救済志向が強い
仲間家族共同体無条件の信頼血縁より「選択された関係」を重視
利害一致感情的絆より合理性・契約的関係現実主義、クールな人間観
距離調整仲間同士の誤解・ズレ・衝突→成熟を丁寧に描写コミュニケーションの難しさへの感度が高い
バラバラ強者集合同一組織でも統制は弱い、各人が「自分の信念や欲望」で動く統合された共同体より「多様性の共存」
家族理想家族「守るべき宝」「失えば人格の根幹が崩壊」家族原理への強い信頼
呪い家族血縁=安心ではなく、むしろ傷の原因血縁に対する冷静/懐疑的な視線
対話家族家族内のズレ・不理解・すれ違いを丁寧に描く白黒ではなくグレーを維持する志向
欠損・不在前提「親がいない」「片親」「謎の家系」血縁以外のつながりを重視

代表的な組み合わせ 

冒頭で述べたように同じ作者・同じ作品の中でも、あるいは一人のキャラクターのなかでさえも複合的な要素をもっていることも多いが、あくまでざっくりとした傾向として代表的なパターンを分類してみた。

Ⅰ. 理想主義・英雄譚型

  • 子ども:純粋性・光源
  • 悪役:理念の影
  • 仲間:家族共同体
  • 家族:理想家族

特徴

  • 作品はしばしば 「理念・大義」を軸に進行
  • 友情・信念・夢が描かれる

代表例:ONE PIECE(尾田栄一郎)、FAIRY TAIL(真島ヒロ)


Ⅱ. 悲劇・救済型

  • 悪役:背景起点
  • 家族:理想家族の喪失、欠損・不在前提
  • 女性:母性・傷ついたヒロイン
  • 子ども:弱さ・脆さ

特徴

  • 弱さと喪失から始まり、救済へ向かう構造
  • 悪役を含め「全員が傷を抱えた人間」

代表例:NARUTO(岸本斉史)、鬼滅の刃(吾峠呼世晴)


Ⅲ. シビア現実主義・競争型

  • 子ども:弱さ・脆さ
  • 仲間:利害一致
  • 悪役:システム悪/環境起点
  • 家族:呪い

特徴

  • 「世界は平等ではない」が前提の思想構造
  • 勝者・敗者・環境差に自覚的

代表例:進撃の巨人(諫山創)、ブルーロック(金城宗幸)


Ⅳ. 異界・異質性志向型

  • 女性:魔性・畏怖
  • 悪役:純粋悪/異常心理
  • 仲間:バラバラ強者集合

特徴

  • 合理で整理できない“怪異”の存在
  • 人間/人外の境界が曖昧

代表例:呪術廻戦(芥見下々)、東京喰種(石田スイ)、 D.Gray-man(星野桂)

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